ローマの人々への個別のあいさつ①(ローマ16:3-5)
3-16節でパウロはローマのクリスチャンたちに対するあいさつの言葉をつづっていきます。パウロが一人一人の特長に言及しながら個別にあいさつしている様子を読むと、彼が人を見る点でいかに注意を払っていたかを知ることができます。
16:3 キリスト・イエスにあってわたしの同労者であるプリスカとアクラにわたしのあいさつを伝えてください。
パウロは最も親しくて重要な関係を持っていたローマ会衆の一夫婦に目を向け、真っ先に彼らへのあいさつを書いています。その夫婦とはプリスカとアクラです。
夫アクラはポントス州生まれのユダヤ人で、一時期はローマに住んでいたものの皇帝の迫害ゆえにコリントに避難した人物です。彼と妻プリスカはパウロから良いたよりを聞いてクリスチャンとなり、同業者としてパウロとともに天幕作りを職として生活していたという経緯があります。(使徒18:1-3) その後アクラとプリスカはエフェソスに移り、(使徒18:18-19)
さらにその後はローマに戻ったと推測されています。パウロがローマ書を書いたころにはローマに住んでいました。おそらく職業の性質上自由に転居することが可能であり、また良いたよりのために活動したいという意思もあり、二人は各地を転々としたのでしょう。
16:3 キリスト・イエスにあってわたしの同労者であるプリスカとアクラにわたしのあいさつを伝えてください。
パウロは二人を自分の「同労者」と呼んでおり、キリストのための彼らの働きを絶賛しています。妻プリスカの名が先に挙げられているのは、彼女のほうが会衆内で重要な働きをしたためかもしれません。
16:4 このふたりはわたしの魂のために自分の首をかけた人たちで,わたしばかりでなく,諸国民のすべての会衆もこのふたりには感謝しています。
さらにパウロは二人のことを「わたしの魂のために自分の首をかけた人たち」と言っていますが、これは象徴的な表現で、生命の危険を冒してまでもパウロを助けたことを示唆しています。いつどこでそのような行動に出たかについては、確かな歴史上の記録がないため詳細不明です。
16:4 このふたりはわたしの魂のために自分の首をかけた人たちで,わたしばかりでなく,諸国民のすべての会衆もこのふたりには感謝しています。
いずれにせよプリスカとアクラは初期クリスチャンたちの恩人であり、各地の諸会衆からも感謝されるべき人たちでした。実際アクラとプリスカが転居した土地には良い会衆が設立されていることにも注目できます。
16:5 そして,彼らの家にある会衆にもよろしく伝えてください。
パウロの愛はアクラ夫婦のみならず彼らの家に集うクリスチャンたちにも及んでいます。たぶんパウロと彼らの間にはいまだ面識がありませんでした。キリストにおいて結ばれた者たちは真の意味で四海兄弟です。
ここで「家にある会衆」について少し説明を加えます。
ユダヤから始まった初期キリスト教は次第にユダヤ教と分離するようになり、分離の結果ユダヤの会堂で集まることはできなくなりました。それ以降3世紀ごろまでクリスチャンたちは、信者の中の主立った人で、なおかつ崇拝に適した部屋を提供できる人の家に集まっていたものと考えられます。こう考えられるのは、初期クリスチャンが崇拝のための特定の会堂を建立した歴史的形跡がないためです。これが「家にある会衆」というものです。同様の仕方で集まっていたクリスチャンのグループは他の地域にも多く存在していました。(コリント第一16:19、コロサイ4:14、フィレモン1:2)
さらに推測できる点として、初期クリスチャンたちは必ずしも自分が所属すべき会衆というものを持っておらず、常に決まった集会所に集っていたわけではなかったようです。現代よりももっと自由な環境の中で、制度にとらわれずクリスチャンとしての崇拝を行っていたものと考えられるのです。これは原始キリスト教の性質に鑑みる限り決して見当違いな推測ではありません。
もしかするとクリスチャン会衆の自然なあり方はローマ会衆から学べるのかもしれません。ローマ会衆は使徒たちによって設立された会衆ではなく、ユダヤや小アジアやギリシャ地方から移り住んだ一般のクリスチャンたちによって徐々に育て上げられた会衆でした。それでもパウロはこのような集まりを否定せず、かえってこれに十分な敬意と関心を払っています。これは注目すべき点です。特にクリスチャンを人間的な組織の下に集約し、その組織に属さない集まりを否定するような考え方を持つ教派にとっては、考えを改めるための良い指針となるのではないでしょうか。
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